| 「シィルティーナ……」 
 ピアリィは妹の無事を祈りました。
 その時です。
 
 「お姉さん、お久しぶりです!」
 そう声をかけてきた一人の青年。
 異界の扉の前で呼びかけをしていたピアリィの肩をチョンチョンと叩き、
 笑顔を浮かべています。
 爽やかな笑顔とは相反する重厚な鎧に身を包み、
 首から下げた光るロザリオが、彼をパラディンだと示していました。
 
 「俺のこと覚えていますか?ほら、10年程前、お隣に住んでいたオルトラットですよ」
 
 ピアリィはしばらくオルトラットを見つめていました。
 誰だろうと昔を思い出していると、裏庭で良く妹の相手をしてくれていたオルトラットの姿が脳裏に浮かび、
 ふと胸元で、納得したように手をポンと合せて、
 
 「ああ!なつかしいですね!もちろん覚えているわ。
 そう……あれからもう10年も経つのね」
 
 オルトラットは両親と共にルティエで2年ほど生活しており、
 丁度空き家になっていたピアリィたちの隣の家を借りて暮らしていました。
 オルトラットとピアリィの両親は同じ職業を志していたため、
 家族ぐるみで付き合いがあったので、10年経った今でも思い出すことができたようです。
 
 「やっぱり10年は長いですね……」
 
 「ええ、そうね。でもオルトラットさんがお元気そうで何よりです」
 
 「ところでシィルティーナも元気ですか?今日は一緒じゃないみたいですけど、
 それにしてもお姉さんがこれだけ綺麗になっているのだから、きっとシィルティーナも……」
 
 シィルティーナの名前が出た途端、ピアリィの表情が曇りました。
 そんな彼女に気づいたオルトラットも不安げに見つめています。
 ピアリィもオルトラットの不安そうな顔と今の気持ちに耐え切れなくなり、
 異界の扉を見据えながらゆっくりと震える口を開きました。
 「……シィルティーナが今とても大変なことになっているの」
 
 ピアリィは全ての事情をオルトラットに話しました。
 闇輝石のこと、異界への入り口の存在、シィルティーナ……
 
 そして……
 
 オルトラットは意を決したようにピアリィに言いました。
 
 「わかりました……俺も連れてってください!」
 「……オルトラットさん」
 
 かくしてオルトラットを含む勇敢な冒険者たちが異界へと旅立つことになりました。
 ぼんやりとした異界への扉はその口をぱっくりと開け、
 まるでこの白い世界全てを飲み込むかのように大きく見えました。
 
 そして異界への旅立ちの時。
 
 「……よし、覚悟を決めて行くぜ!みんなでシィルティーナを助けよう!」
 
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