【プロローグ】
薄暗い部屋にひとりの男がいました。
その男は部屋の中心にある台座の前に立ち、薄笑いを浮かべ独り言をはじめました。
「へへっ……これくらいちょろいぜぇ」
そう言うと目の前にあるぼんやりと紫色に光る石を手に取り、黒装束の腰にある皮袋にしまいました。
すると……
「おい!貴様!そこで何をしている!!」
「うぉっ!流石に気づくのがはぇぇな……とっととずらかるか」
警備兵の声に反応して、男がいる廊下の反対側から次々と他の兵が駆けつけてきました。
身の危険を感じた男は走り出し、それを見た警備兵たちは男を追いかけはじめました。
逃げる男の皮袋から薄っすらと漏れる紫色の光。
それを目にした警備兵の一人が焦りの声を上げました。
「その光は……まさか!おい!待たんかっ!!ええいっ射て!」
警備兵の掛け声と共に無数の矢が、男へ向かって放たれました。
そして……
「ぐわっ!!」
男に命中したと思われる声が廊下に響き渡り、パリィーンという何かが割れる音がしました。
そして軽快だった逃走する足音が消えてしまいました。
「……どうやら命中したようだな」
そう言うと警備兵の一人がゆっくりと、
声がした方へ近づいて行きます。
しかし……
男の姿は無く、男が脱出したと思われるガラスの
割れた窓から漏れる月光が、
煌々と地面を照らし出していました。
男は闇へと逃げ切ったのです。 |