| 「うぅ……な、なんだてめぇは!」 
 瞬間的に男はバックステップでシィルティーナとの間をあけました。
 さっきまで雪の中で苦しそうに唸っていた人間の反応とは思えない動きです。
 そんな状況を見たシィルティーナは驚きを隠せません。
 
 男は怪我をしている脇をかばいながらもシィルティーナを睨み、視線を外しません。
 きょとんとしていたシィルティーナですが、
 ハッと我に返り男に声をかけました。
 
 「あの……おじさん……」
 
 男はまだ態度を変えようとはしません。
 再び声をかけようとすると腰にある皮袋から何かを取り出しました。
 
 「あっ……それはもしかしてハエの羽!」
 
 その言葉を聞くと男は一瞬ニヤっとし、ハエの羽を使ってそのまま何処かへと飛び去って行きました。
 
  そして、男が飛び去ったと同時に、紫色の光がキラキラ光りながらドサッと音を立てて雪の中に落ちました。 
 「あれ……何か落ちたみたい」
 
 シィルティーナは光の方へと足を運びました。
 ふと下を見ると雪に埋もれた紫色に輝く
 石が落ちていたのです。
 
 「おじさんの落し物かな……?」
 
 ゆっくりと小さな両手で石を拾いあげました。
 良く見ると不気味な闇が石の中で渦巻いていました。
 
 「……このまま置いてくのも怖いから、お姉ちゃんに見せてみよう」
 
 そう思い、シィルティーナは石を自分のポーチにしまいこみました。
 しかしその石がポーチに入ると同時に、薄っすらと紫に光ったことを
 シィルティーナは気づいていませんでした。
 
 姉に見せるためにルティエへ戻ったシィルティーナは、
 街の入り口付近で、身体に感じる振動と共に地面が揺れるのを感じました。
 
 「えっ……なに!?」
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