賢者の都市ジュノーにモンスターの大群が向かっていると報告が入った。
今までの徐々に南下していたモンスター侵攻ルートとは
明らかに異質なジュノーへの襲撃に黒幕が関わっていると踏んだヴェルクは
急ぎシュバルツバルド共和国の国境都市アルデバランに向かった。
この先に黒幕がいる!
アルデバランで勇士を募り、いざ進軍しようとしたその時、
ヴェルクは何故かためらった…。
「ここはシュバルツバルド共和国…」
「友好国とはいえ、武装を解かずこれ以上先に進めば、
外交に支障をきたす可能性がある…!」
「しかし…、しかし…!!この先に敵の黒幕がいるのだ…!
皆…私は一体どうしたらいいのだ…?」
その時、集まった勇士達は「もちろん行こう!」「隊長行きましょう!」と
それぞれの言葉で苦悩するヴェルクの背中を押した。
ヴェルクは勇士達の言葉で決心がついたのか、顔を上げると
「…すべての責任は私がとる!皆私に力を貸してくれ!!」
とはっきりした声で皆で告げた。
義勇軍勇士達はヴェルクの決意に同じく声を上げ応え、
モンスターを追い、アルデバランを出発した。
ヴェルクは敵に気付かれぬように、しかもモンスター達より早く
ジュノーへ向かい、迎撃しようと兵を進めた。
そして、ジュノーまで後少しのところまで辿り着いた時、
予想より早く敵の斥候部隊が到着し、態勢が整わぬまま戦闘開始となった。
モンスター群は斥候部隊とはいえ、かなりの数であり
戦いは一進一退という状況だった。
そんな中、義勇軍は粘り強く戦い続けた。
徐々に優勢となり、やがて敵は力つきたのか攻撃を止め、退却していった。
義勇軍は敵の斥候部隊を追いかけたものの途中で見失い、
行方が分からなくなってしまった。
「敵はどこだ…」
隊長の顔にも焦りが見える。
消えた斥候部隊を探すが、発見する事ができない義勇軍に向けて
何者かが語りかけてきた。
それは、今までのモンスターの言葉とは違い、
雄たけびでも怒号でもなく、静かに問い掛けてきた。
「人間は何故知恵を…力を求めるのか…」
「古代遺跡を発掘し、モンスター研究を行い
そしてユミルの心臓の力までも手に入れようとしている…」
「何故身分不相応な力を手に入れたがるのか…」
「力を求め、そして手に入れた人間はいずれ異質なものを
完全に排除しようと我々に牙を剥くのは必至。」
「ならばその前に滅ぼすべきなのだ…」
彼は人間達を恨むモンスターの心を巧みにそそのかし、人間達を襲わせた。
すべては一つの計画だったと、声の主は言った。
その名は…タートルジェネラル。
かくして義勇軍隊長ヴェルクは今回のモンスター襲撃の黒幕、
タートルジェネラルと対峙し決戦を迎えた!
…死闘は長く続いた…あるいは、それほど時間は経っていなかったのかもしれない…
だが、あまりにすさまじい戦闘に時間の感覚は麻痺してしまったのだろう。
大勢の勇士達が、咆哮を上げながら荒れ狂うタートルジェネラルへと
剣を抜いて殺到していった。
タートルジェネラルの刃により幾人もの勇士が倒れていったが、
皆これが最後の戦いと自らに言い聞かせ、何度も何度も立ち上がり戦い続けた…。
そして…ついに決着がついた。
タートルジェネラルの巨大な体がゆっくりと地に倒れ、
大地を揺るがす大きな音があたり一面に響き渡った…。
彼は残る力を振り絞り最後にこう言い残した。
「知識を求めるのもいいだろう…しかしお前達はいつか必ず力に溺れる…」
「我らが手を下さずとも、いずれ自らを滅ぼす事になるのだ…覚えておくがいい。」と…。
首謀者を倒し最後の戦いに終止符が打たれ、街への侵攻の心配もなくなった。
だが、私はどうしても彼の言葉を忘れることが出来ない…。
いずれ自らを滅ぼす…
もしかしたら一番危険で一番恐ろしい敵は弱い心を持った人間自身なのかもしれない…。
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